元大統領の学歴詐欺疑惑 - 卒業証書偽造の真相は?

真面目に努力した人々の信頼を裏切り、教育制度全体の信用を失墜させる学歴詐欺。これを平気で行うような人物が権力を握ると、それを隠蔽やさらなる不正のために利用することも平気でやってしまうので、世の中が非常に乱れる。さらにそういう訳ありの人物ほど権力の座にしがみつきたがるという傾向があるようだ。

現在インドネシアで最も熱い話題になっているのが、10年間も国の最高責任者を務めたジョコウィ前大統領の卒業証書偽造疑惑。ジョコウィ大統領の人となりについては、これまでも何度か触れたことがあるが、旧体制をぶっ壊すイメージで登場し、国民ではなく、外国の利益のために精力的に大胆に働いたというところが日本の小泉元首相と重なる。

かなり乱暴なやり方で自分の息子を副大統領に当選させただけでなく、国務長官、警察長、最高裁判所長官、汚職撲滅委員会委員長、そしてその他現政権の組閣にも腹心を留任させるというやり方で、ジョコウィ大統領は退任した後も現政権でも強い響力を維持している。

オバマ大統領には、出生地に関する疑惑がつきまとっていたように、ジョコウィ前大統領にも卒業証書の信憑性に関する疑惑が、任期中からつきまとっている(因みに、幼少期をインドネシアで過ごしたというオバマ元大統領とJ大統領には1961年生まれという共通点がある)


ジョコウィ前大統領(以下J大統領)は、2005年から2012年まで地元のソロ市で市長を務め、2012年ジャカルタ特別州知事に就任、その2年後、2014年の大統領選挙で初当選、2019年の再選を経て2期目を務めたが、問題になっているのは2019年の出馬の際に、選挙運営委員会に提出し、選挙運営委員会のウェブサイトで公開されている卒業証明書類。

2018年、一般人男性が個人のフェイスブック上で”J大統領の卒業証書には、1980年スラカルタ第6高校卒業と書かれているけれどその高校の創立は1986年。ということは卒業証書は偽物なんじゃないか’ という疑問を投げかけたことが問題になる。 

公立学校の設立年という公な情報に基づいた一般人の分析に過ぎない意見にもかかわらず、警察は過敏に反応し、その28歳の男性Kは”嘘の情報を拡散した罪”(情報電子取引法)といういわくつきの法律によって逮捕されている。

その他にも、2017年に出版されたJokowi Undercoverという暴露本がある。その内容というのが、1965年10月~66年3月ごろまで続いた共産党員の一掃(共産主義者またはその支持とみなされた300万人ともいわれる人々が全国的に無差別に大虐殺された)事件で生き残った共産党員の残党の子供の一人がJ大統領であるということを示唆するもの。

以来、インドネシアでは産党の活動は法律で禁止されているが、殺害や逮捕を逃れた一部の党員が地下に潜伏して活動を継続し、共産主義国本国からの支援を得て、国の権力を掌握するために工作活動をしていたという可能性はあるだろうか?あるかもしれない。大いにあるかもしれない。

但し、著書そのものは写真を見て顔や姿が似てるとかいう憶測にすぎない説明も多く、さらにまだその頃は大統領への信頼も厚かったので、とんでも話の一つと考えられ、別に話題になったのでもベストセラーになったわけでもない。

しかし、著者であるジャーナリストのB氏は、警察に逮捕されて2年半の実刑判決を受ける。またしても適用されたのは、フェィスブックで嘘の情報を流したという情報電子取引法で、ジャーナリストとしての著書の発行そのものが法的に裁かれたわけではないようだ。

B氏の挑戦はまだ続く。実刑を終えたB氏は、J大統領の高校の卒業証書が偽物であるという疑いに絞って、元同級生に直接話を聞いたり、卒業証書を見せてもらったりという独自の調査で証拠を収集し、2022年中央ジャカルタ裁判所に訴訟を起こし、受理されている。

裁判の前々日に収録されたというトークショーでB氏は、妻や子供、兄弟にも脅迫の手が及んでいる現状、そして裁判への抱負について語っていた。

”卒業証書が偽物だったっていう判決が出れば、大統領としての権限も無効になるんだ!J大統領が積み上げた国の借金だって無効だって言い張れるんだ。まさかって言うなよ。イスラエルを見てみろ、国民が一致団結して言い張れば押し通せるんだ。子供たちの世代に重い借金を背負わせないためだ、やろうぜ!”

AIで調べると、B氏は麻薬常習犯だという風にも説明されているけれど、その時の様子は明朗闊達で、かえって嘘や隠し立てのできない人物のように思える。コメント欄をみても応援のメッセージが並んでいる。

しかしその裁判は行われなかった。裁判を前にしてB氏はまたしても警察に逮捕され、今回は6年の懲役に服することになる。訴訟の方はB氏の弁護士によって取り下げられた。しかし彼の努力は決して無駄に終わった訳では無く、その後も様々な側が様々な形で、真相究明を追及している。

2024年4月には、一部の野党議員らによって同じ件で訴訟が提出し、裁判所によって拒否されたこともあったが、現在、J大統領が退任して半年が経ち、J大統領の地元ソロ市地方裁判所に提訴された訴訟が注目を集めている。

地元ソロ市のベテランの弁護士団体が原告というだけあって手際がいい。J大統領本人だけでなく、いくら指摘されても調査もせずに卒業証書が本物であると主張する高校や大学、そして偽の卒業証書で登録を受理した選挙運営委員会も訴えるという囲い込み戦略に期待が高まる。

さらに、情報デジタルフォレンジック (デジタル機器に記録された情報から犯罪や事件に関する法的証拠を解明する)専門家や、大統領選挙の不正疑惑の時も活躍していたITの専門家も参戦して、さらに多くの証拠が提示されている。

現在までに指摘されている疑惑は数多い。

  1. 卒業証書番号の形式が標準と違う
  2. 卒業証書の証明写真は眼鏡を外すという決まりがあるのに眼鏡をかけている
  3. 木材科という専攻は存在しない
  4. 卒業証書、結婚証明書、同じ写真が使用されている。何度も編集した跡がある
  5. 卒論の指導教授の署名が怪しい
  6. 当時まだ使用されているはずのないTimes New Romanを使用して印刷されている
  7. 卒論のカバーと謝辞のページの紙質、古さが違い、カバーと一致しない内容がある
  8. 卒論発表日とその評価のページに学士でなく修士課程のフォーマットが使用されている
  9. 卒論の指導教授のステータスがおかしい、署名欄に日付がない


さらに気になるのは、J大統領の学生時代の写真だとして公開されてきた写真を、専門家がAIを使って分析したところ本人である確率は極めて低いという結果が出たということ。そして、B氏によれば、その写真は妹の夫、つまり義理の弟であるHMの写真だという。

HMは、GM大学の学生だったが進級できずにドロップアウトしたといわれている。さらに謎なのは、義兄の所有する企業の経営を任されソロ市に住んでいたHMが2018年ジャカルタで突然死。また、夫に先立たれ遺されたJ大統領の妹Iは間もなく再婚して、現憲法裁判所裁判長のUと再婚している。

謎が謎を呼ぶ元大統領の卒業証書。GM大学の経営陣は一貫して、卒業証書は本物だと主張しているが、原本は大学には保存しておらず本人が所持しているはずだという。そしてその本人はというと、卒業証書を公開するといって報道陣を集めておきながら、撮影を禁止するという意味不明の行動をとっている。

”これ以上ないほどの侮辱をうけた”と、J前大統領は怒りをあらわにして、名誉棄損、誹謗中傷罪で警察に訴えることで対抗している。 偽物でないというのなら、本物の卒業証書を提示すればすむことなのに、J前大統領の支持者らは、昔の写真やら同級生の証言やら、卒業証書以外のことで、疑惑をはらそうと必死だ。

現在の段階は、卒業証書原本のフォレンシック調査するということになっているが、国家警察はJ大統領の言いなりであることは公然の秘密。当然、結果ありきで碌な調査もせず本物であると宣言する可能性は非常に高い。

それでも、これだけ出回ってしまっている専門家によって提示された証拠を否定することは、正真正銘の卒業証書でも出てこない限り難しいのではないだろうか。

微かに期待できるのは、フィリピンでも選挙では協力関係にあった大統領と副大統領の対立が激化しているとのことだけれど、インドネシアでもそうなってきているのかもしれないということ。たまにはスカッとする話があればいいのに。

実は、インドネシア語で”卒業証書サービス”と検索するだけで、恐ろしいほどたくさんの宣伝文句が出てくる。 ”本物として通用する” ”卒業証書を買うと卒業式に参加できる” ”就職に!選挙に!” などとも謳われている。

”ネットから連絡すれば、卒業証書と一緒に必要なレベルの成績表まで購入できる”
として国内有名大学の名前もずらりとリストアップされているということは、学校の事務か何かに協力者がいるとうことを暗示している。

やっぱりそうかという感じだが、こういうのを取り締まることが出来るかできないかということが、経済成長よりもずっと重要な評価対象となる時代が来て欲しいと本当に思う。



2024年大統領選挙序章 大統領の息子が副大統領候補になった経緯


G30 から1998年スハルト政権退陣後まで 




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